こんなニュースが流れてきました。
マナティーの背に「トランプ」の文字 米当局が捜査開始
https://news.yahoo.co.jp/articles/dfd22c0fb5affa9537aa681852c8ea5e442ee0b81/13(水) 8:53配信
【1月13日 AFP】「TRUMP(トランプ)」と背に書かれたマナティーが見つかったことを受け、米フロリダ州の米魚類野生生物局(FWS)は11日、情報提供を呼び掛けた。
フロリダ州の地元紙シトラス・カウンティ・クロニクル(Citrus County Chronicle)が、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の姓と同じ「トランプ」の文字が刻まれたマナティーが、ゆっくりと泳ぐ姿を捉えた動画を公表したことがきっかけとなった。
FWSの捜査官クレイグ・キャバナ(Craig Cavanna)氏は同紙に対し、現在進行中の捜査についてコメントすることはできないと話した。
同氏は保護動物を傷つけた場合、5万ドル(約520万円)以下の罰金および1年以下の禁錮を科される可能性があると指摘した。
被害を受けたマナティーは10日に見つかった。その4日前の6日、米首都ワシントンではトランプ氏の支持者らが連邦議会議事堂に突入したが、マナティーの落書きがいつ行われたかは分かっていない。
マナティーが撮影されたフロリダ州西岸のホモサッサ川(Homosassa River)にはこの時期、温かい水を求めてマナティーが多数集まってくる。
映像前半は「TRUMP」と背に書かれたマナティー、フロリダ州の地元紙シトラス・カウンティ・クロニクル提供、10日撮影。後半は別のマナティーの資料映像、フロリダ州で2020年12月撮影。(c)AFPBB News
リンク先には落書きされたマナティが泳ぐ姿が動画であるのですが、よく見るとその背中には何か白い付着物が。
↑TRUMPのTの字のまわりに白い付着物。
↑拡大。
これはマナティーに特異的に付着するとされている、マナティーフジツボ(日本にいないので特に標準和名として提唱されているわけでもありませんが)Chelonibia manati ですね。
ウミガメに付着することでよく知られるカメフジツボ Chelonibia testudinaria の同属別種として長く扱われてきましたが、最近の研究ではカメフジツボと同種なのではないかという系統解析の結果が示されています (Zardus et al. 2014, Mar Biol)。
黄線がウミガメに付くカメフジツボ Chelonibia testudinaria、
緑線がガザミ等に付くガザミフジツボ Chelonibia patula、
赤線がマナティに付くマナティフジツボ Chelonibia manati です。
形態でこれまで区別されてきた通りそれぞれ別種なのであれば各色ごとにひとかたまりになってくれるはずですが、この系統解析の結果では大西洋/インド・西太平洋/東太平洋と採集地域ごとにかたまりになってしまいました。このことが意味するのは、同じウミガメに付着するもの同士よりも、宿主がなんであれ同じ海域で採集されたものの方が遺伝的に近縁であるということです。つまり、カメフジツボの付着基盤の材質によって形態がそれぞれ変わってしまうだけで、実は3つとも同じ種なのではないか、という解釈ができるのです。
この3種については、遺伝的にこのような結果が得られましたよ、という報告はあるものの、その後形態による種の定義の見直し、つまり再記載がされていないので分類学的にはまだ3種混在している状態です。遺伝的に区別できたこれらの標本をきちんと形態的に定義しなおせば、国際動物命名規約の「先取権の原理」によってカメフジツボ Chelonibia testudinaria 1種にまとめられるはずです。
ちなみにマナティに近縁なジュゴンにもフジツボの付着が報告されていますが、こちらはマナティフジツボ(カメフジツボ)ではなく、サラフジツボ Platylepas hexastylos でした (Darwin, 1854; Zann & Harker, 1978; Jones, 2004)。ジュゴンにカメフジツボが付着している例はまだ知られていません(が、ワニにカメフジツボが付いている例はいくつか知られています【
ワニフジツボ1】【
ワニフジツボ2】)。カメフジツボは太平洋にもたくさんいるのに、なぜジュゴンには付かないのか?サラフジツボは大西洋にもいるはずなのに、なぜマナティーには付かないのか?美ら海水族館ではマナティーを飼育しています。このマナティ水槽にカメフジツボとサラフジツボのキプリス幼生を放って、それぞれ本当に付着できるのかできないのか、いつか実験できたら楽しいだろうなあと思っています。