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生物学論文紹介同人サークル「ハイアイアイ臨海実験所」です。
ここでは、気になった学術論文を紹介したり、同人活動を告知したりします。

2010年04月12日

【論文】オサガメの潜水行動

亀藤です。今日紹介する論文はコチラ、

Prolonged deep dives by the leatherback turtle Dermochelys coriacea: pushing their aerobic dive limits
Lopez-Mendilaharsu et al. 2009
Marine Biodiversity Records, 2, e35, 1-3. doi:10.1017/S1755267208000390
【オサガメの潜水行動】



オサガメといえば世界最大のウミガメです。ここで最初に紹介したオサガメはシャチにやられていましたが、僕は例の論文を読んだときにこう思ったのです。

「シャチなんかどーせたいして潜れやしないんだから、深海に潜って逃げればいいのに…」

そんなわけで今日はオサガメの潜水深度世界記録樹立の紹介です。


CITES(ワシントン条約)で全種扱われているウミガメ類の中でも最も絶滅の危機に瀕していると評判のオサガメさんです。そのため、欧米諸国でもなかなか注目を集めています。アルゴス発信機を用いた行動追跡研究などはオサガメに発信機を付着する例が一番多いのだとか(Godley et al. 2008)。
argos.jpg
↑これまでアルゴス発信機で行動追跡した個体数(左からオサガメ・アカウミガメ・アオウミガメ(クロウミガメも含む)・ケンプヒメウミガメ・ヒメウミガメ・タイマイ・ヒラタウミガメ; 2008年現在、学術論文として公開されているものに限る)

オサガメに発信機をつけてレースをさせた試みもありました。このように「どういうルートで泳ぐか?」という行動追跡は数多くされています。一方、このオサガメが「何m潜れるのか?」「何時間潜っていられるのか?」については様々な推定がされているだけで、実証的な研究例はまだ多くないようです。

というわけで先日も紹介したデータロガーの出番です。今回データロガーを装着したオサガメは曲甲長(紐尺で計測した値)148cmの雌の個体です。そのオサガメはどれくらい潜れたのでしょうか?
Fig.1.jpg
なんとびっくり1186mも潜っていましたよ。ちょうど先日冬眠中のアカウミガメの潜水行動論文を紹介したばかりですし、このオサガメがどれくらい潜ったのかを一つの図にまとめて比較してみましょう。ものすごい縦長の図になってしまったので、途中を省略しました。
fig comp3.jpg
右側の図が実際のバーの比率を示しています。アカウミガメがせいぜい20〜30m程度しか潜っていないのになんてこと!!メチャクチャ深くまで潜っています。これらの図を見てわかるのは、明らかに深海のナニかを目指して泳いでいるということです。ダラダラするだけならあんなに潜る必要はないはず。たぶん餌を食べに行っているんだとは思われていますが、水深1000m、太陽光も届かぬ闇の中でどのように餌を探しているのか、まだまだ謎はつきることがありません。


では、オサガメの脅威の潜水能力はどこから出てくるのでしょうか?

オサガメと他のウミガメ類の骨格を比較してみましょう。
turtle bones red.jpg
各ウミガメをひっくり返して腹側から見た骨格図です。各種の腹甲の骨の一部を赤く示しました。この大きさを比較してみると、体は一番大きいくせにオサガメの腹甲骨はとても貧弱です。どうして?

これは深海への適応だと考えられています。深くへ潜れば潜るほど、体にかかる水圧は増していきます。あまりがっちりした骨で全身を覆われていると、水圧で自分の体が潰されてしまうのです。そのため、オサガメは自身の骨を極限まで軽量化し、水圧に耐えられるように適応したのだ、と考えられています。

また、オサガメについては「一億年前からその姿を変えず( ry 」というような紹介をよくされていますが、アカウミガメ・アオウミガメなどを含むウミガメ科と一科一属一種のオサガメの共通祖先が少なくとも一億年前まで遡ることができる、というだけのハナシで実際に今と同じ姿で泳いでいたわけではないことを注意したいところです。
leatherback fossil.jpg
この化石は白亜紀後期、およそ7000万年前のものです。オサガメ科化石Mesodermochelysは、ウミガメ科系統とは別の系統ではあるもののけっこうしっかりした骨格を持っていますね。まだ深海への適応が始まっていません。超大雑把に言うとオサガメ科は
・rostrum basisphenoidale(頭骨の一部)が小さい
・上腕骨が太い
という2点において他のウミガメ科と区別されているそうで、深海への適応がオサガメ科の特徴なのだ、というわけではないのです(この定義は1994年当時のものなので、今は変わっているかもしれません)。また、こちらはウミガメ科の化石なのですが、オサガメ同様深海に適応したものと考えられてる化石です。
Allopreuron.jpg
腹甲の骨の縮小具合がオサガメっぽいですよね。でもこのAllopleuronはウミガメ科(Gaffney & Meylan, 1988はプロトステガ科としているようです)。これらは深海という環境に適応した収斂形質で、直系の祖先関係にあるわけではないようです。なんだか最初のオサガメ潜水論文というよりHirayama (1994)の紹介になってしまいました。



【追記】
今回比較に用いた冬眠中のアカウミガメは潜水深度が20〜30m程度でしたが、それよりもっと深い150mくらいまで潜ったという記録も知られています(Polovina et al., 2004)。僕が知らないだけで実際にはアカウミガメでももっと深い記録があるかもしれません。



ここに紹介した深度の図はHochscheid et al. (2005)とLopez-Mendilaharsu et al. (2009)の図を引用・改変させていただいたものです。また、ウミガメの骨格図はHirayama (1994)の図を引用・改変させていただいたものです。

Godley et al. (2008) Satellite tracking of sea turtles: where have we been and where do we go next? Endangered Species Research, 3, 1-20.
Hirayama, R (1994) Phylogenetic systematics of chelonioid sea turtles. The Island Arc, 3, 270-284.
Polovina et al. (2004) Forage and migration habitat of loggerhead (Caretta caretta) and olive ridley (Lepidochelys olivacea) sea turtles in the central North Pacific Ocean. Fisheries Oceanography, 13(1), 36-51.
posted by 亀藤 at 21:43| Comment(2) | 論文紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
1200メートルとか凄すぎですね!
驚きました!
Posted by at 2014年01月02日 01:54
そうですね、それと水深1200mにもなると、水温も0度に近いはずです。爬虫類であるオサガメがこのような低水温にも平気でいられるのか… 詳細は省略しますが、このような研究例も知られています。
Posted by かめふじ at 2014年01月07日 02:03
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