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生物学論文紹介同人サークル「ハイアイアイ臨海実験所」です。
ここでは、気になった学術論文を紹介したり、同人活動を告知したりします。

2013年04月07日

【論文】深海潜水艇トリエステ号の伝説

亀藤です。なんか沼が続けて論文紹介してくれたのでひさびさにこちらも1本紹介します。今日紹介する論文はコチラ、

On the validity of the Trieste flatfish: dispelling the myth.
Jamieson and Yancey (2012)
Biological Bulletin, 222, 171-175.


深海潜水艇トリエステ号の伝説


日本でも深海潜水艇 しんかい6500が活躍中です。最近では深海に生息するダイオウイカの生きた姿をとらえた映像も話題になりました。「人類は月面には到達することができたものの、未だ深海底のことはほとんど明らかにできていない」と表現する方もいます。このように、深海という環境は人類に残された数少ないフロンティアということもできるでしょう(別に高い金かけてわざわざ深海まで行かなくても未知の生物や現象はいろいろあるだろ、と個人的には思っていますが)。

そんな過剰なロマンを背負わされる深海という環境ですが、これまで有人潜水で最も深く潜ったとされる記録はなんと1960年1月23日、今から50年以上も昔のことでした。ピカールとウォルシュという2名を乗せた深海潜水艇トリエステ号は片道5時間以上もかけてマリアナ海溝南部の最深域チャレンジャー海淵の海底に到達。その深さは実に10911 メートルであるとされています。

この潜航では海底に20分ほど滞在し観察をしたそうなのですが、その際に二人は「なんかヒラメみたいなのがいた!」という供述を残します。正確には「シタビラメに似たカレイの一種」という表現だったそうですが。今では深海にも熱水噴出孔をはじめとした環境にさまざまな生物が生息していることが明らかになっていますが、当時深海は太陽光の届かない無の世界と考えられており、この魚の発見は大変センセーショナルな話題となったようです。

その後も人類による深海への挑戦は続き、今では深海にもさまざまな生物がいることが広く知られるようになってきたわけですが、どうもあそこまで深いところになると無脊椎動物はいても魚はいないようだぞ、トリエステ号のピカールのハナシは本当かいな、という意見も出てきました。この論文では、これまでの深海調査のレビューとともに、このピカールのヒラメについてその信憑性を検証しています。

fig 1n.jpg

左側の図Aは、これまでに知られているカレイ目各種の分布深度(黒い点)と、軟骨魚類(サメとかエイとか)各種の分布深度(灰色の点)です。どうもピカールの表現は「小型のシタビラメみたいなカレイっぽいやつ」という感じらしく、カレイっぽいカタチというとやはりカレイの仲間か、エイの仲間あたりだろうか、ということでここに挙げています。この図を見るとカレイの仲間の最大深度は3000mちょい、エイの仲間の最大深度は3800mあたりでしょうか。どちらもピカールの深度には程遠く、なんだかあり得なさそうな感じがします。一方、右の図Bはこれまでに記録された深海の魚類出現記録です。これまでに最も深いところで採集された魚類は水深8370mのところ、ヨミノアシロという魚です。それにしてもピカールの言う地点からはまだ2000m以上も浅い。

また、この論文では各深度における観察時間も合わせて考察しています。ピカールとウォルシュが海底で観察していた時間は20分ほどだといいます。しかし、近年では深海調査も頻繁に行われるようになりましたし、無人探査機にカメラを積めばもっともっと長い時間観察することができるわけです。その後映像だなんだも含めれば何百時間もかけて観察し、それでも同地点で一向に魚が見つからないのに、20分ちょいで小さな窓から観察していた二人に見つけられるというのはなかなか考えにくいほどの偶然であろう、と。

そんなわけでこの論文では50年以上伝説として語り継がれてきたトリエステ号のヒラメについて、あれは二人の見間違い、実際には大きめのナマコかなんかの類だったのではなかろうか、とまとめています。ピカールの深海底到達から50年以上の時間を経て、伝説のヒラメについておおよその決着をつけました、という論文でした。


図中に挿入した魚写真は以下のサイトから拝借したものです。
http://www.jamstec.go.jp/ (a シンカイヨロイダラ)
http://faunafabula.tumblr.com/ (b, c シンカイクサウオ)
http://australianmuseum.net.au/ (d ヨミノアシロ)
posted by 亀藤 at 21:12| Comment(0) | 論文紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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