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生物学論文紹介同人サークル「ハイアイアイ臨海実験所」です。
ここでは、気になった学術論文を紹介したり、同人活動を告知したりします。

2013年05月03日

【論文】フジツボのペニスの脱落と再生

沼です。
今回はフジツボの雄性生殖器、つまりペニスについての論文紹介です。

Regeneration of the penis in Balanus balanoides (L).
Klepal and Barnes, 1974.
J. exp. mar. Biol. Ecol., Vol.16, 205-211.
PDFこちら

移動能力をもたない水棲生物の生殖は、ふつう、水中に精子と卵を放出する「体外受精」です。二枚貝類やサンゴ類などがその代表例と言えるでしょう。
体外受精というのは結構ロスの多い生殖戦略です。水中に放出された精子・卵のうち、受精に至るのはごく一部です。でも、受精率は高いほうがいいですよね。
そこで例外的に、水棲固着生活者でありながら体内受精を行なう生物がいます。それがフジツボ類です。フジツボ類は非常に長いペニスをもちいて、近接した個体と交尾を行ないます。
なぜフジツボ類が体内受精をできるのか、その理由は定かではありませんが、系統のなせる技(フジツボ類含む甲殻類は体内受精が基本)なのかもしれません。

フジツボ類のペニスは多節のチューブ構造をしています。ペニスは筋肉と水圧調節によって自由自在に動くのですが、その動きはまるでミミズのようであり、「節足動物らしい」カクカクした動きとはだいぶ違って見えます。



フジツボの交尾.jpg

フジツボ類のペニスは、殻の中のフジツボ本体と比較して最大で8倍程度もの長さにもなりますが、ふだんは殻の中に収納されています。ペニスを効率よく収納するため、ペニスの根元は、ほぼ直角に曲げることができます。
ペニスの根元は曲げ伸ばしを繰り返す部位なので、ペディセル(pedicel)およびガードル(girdle)という特別な外骨格で構造的に強化してあります。また、ペディセルを起点に多数の筋肉が付着しており、これによってペニスを精密に動かすことができます。

フジツボのペニスの根元.jpg
(クリックで拡大)

ほとんどのフジツボ類の成体は一生涯にわたってペニスを維持します。
しかし、本研究によると、Semibalanus balanoidesというフジツボは、一年周期でペニスの脱落と再生を繰り返します。
S.balanoidesでは11月に交尾が行われます。その後、精巣が次第に退化し、それと同時にペニスが縮小していきます。ペディセルとペニスの間に器官脱離層が形成され、脱皮と同時に、ペディセルの一部を残してペニスが完全に脱落します。
その後、定期的な脱皮とともにペニスは少しずつ再生していき、11月の繁殖期には再び完全なペニスが出来上がる……とのことです。
へぇ〜……すっごい……

フジツボのペニスの脱落と再生.jpg
(クリックで拡大)

【感想】

難易度★☆☆☆☆


要するに「繁殖期以外はペニスは要らない」ということなんですが、それにしてもここまで思い切ってペニスが脱落・再生するような例は他に聞いたことがなく、なかなか面白いかと思います。
フジツボのペニスでは、他にも面白い現象が報告されています(波浪の影響を受けて形状が変化する等。詳細は当実験所の刊行物「斜論Vol.2」参照)。
今後は、生殖ホルモンなどの生体分子がペニスの発達にどのように関与しているのか、よりミクロな視点での研究が進んでいくのではないでしょうか。

フジツボ―魅惑の足まねき (岩波科学ライブラリー) [単行本] / 倉谷 うらら (著); 岩波書店 (刊)
posted by 沼 at 21:35| Comment(0) | 論文紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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