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生物学論文紹介同人サークル「ハイアイアイ臨海実験所」です。
ここでは、気になった学術論文を紹介したり、同人活動を告知したりします。

2015年11月23日

【論文】ジュラシック・ポーク:時をかける教徒

亀藤です。なにやらよくわからんタイトルの論文がグースカアラートで流れてきたので今日はこちらを紹介します。

Jurassic Pork: What could a Jewish time traveler eat?
Plotnick et al. 2015
Evolution: Education and Outreach, 8, 17.


『ジュラシック・ポーク:時をかける教徒』
なんだこりゃ


ふだんあまり目にしない単語が出てきたものでなんのことかさっぱりわからなかったのですが、これはユダヤ教徒が中生代、新生代だのにうっかりタイムスリップしてしまった場合、厳しい戒律の制限の中でいったい何を食べることができるのであろうか、という内容の論文でした。

ユダヤ教徒には「カシュルート(Kashurut)」という食事規定があるそうで、その食べてもよいものを「カシュル(kosher)」と呼んでいるそうです。さて、ではそのカシュルートで許されている食べ物とはなんでしょうか。

牛・山羊・羊・カモシカ・魚・ハト・カモ・ニワトリ・イナゴなどは規定上食べても問題ない一方で、ラクダ・イノシシ・ウサギ・ハイラックス・豚・馬・ロバ・モグラ・ネズミ・ネコ・ライオン・狼・キツネ・トカゲなんかは食べてはいけないとされているそうです。規定で制限しなくてもライオンをいただく機会はなかなかないと思いますが…

タイトルのジュラシック・ポーク、つまり豚肉ですが、豚はここ数千年で家畜化されたイノシシでしかないので、うっかりタイムスリップするにしてもそのときには存在しない可能性が高いわけです。野生の豚であるところのイノシシですが、こちらは分岐年代推定的には新世代に入ってわりとすぐラクダ類と鯨偶蹄目から分岐した系統の模様(Gatesy et al. 2013)。この系統の最古の化石記録は5500万年前頃のようですので、それ以前であればとりあえず食べても大丈夫なようです(そもそも哺乳類が調子に乗り始めたばかりの時期なのでそんなにたくさん他の哺乳類がいたかわからないけど)。

さて、個々の事例を挙げていくとキリがないので、どういう基準でユダヤ教カシュルートにおける食用の可・不可が決められているのかを見てみましょう。wikipedia先生によれば「四足の獣のうち、反芻しないものは食べてはならぬ」とされているようです。確かに豚は反芻しない一方、牛は反芻しています。また、もう一つ「蹄が割れていないものは善悪の区別ができないために食べるべきでない」というよくわからない条件もあるようです。ここで問題になるのがラクダです。ラクダは反芻しますし蹄も中指と薬指を残して他の指が退化しているため割れており、食べることは可能なはずですが、蹄が毛に覆われていて明確に割れているように見えないためユダヤ教においては食用とすべきではないとされているようです。ただ、これは現生ラクダの場合。一方、始新世頃のラクダ祖先化石記録を見てみますと、キッチリ割れています。
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論文より、aがカモシカ、bがラクダ祖先化石 Hypertragulus calcaratus、cがラクダ。
ちょっと写真の角度が悪く蹄の形態が見にくいのですが、ラクダ祖先化石である Hypertragulus calcaratusは形態的には食用としてもよさそうです。しかし、反芻という性質は系統的にはラクダ類と牛をはじめとする反芻動物とそれぞれ独立に獲得された形質で、ラクダ系統がいつ反芻という性質を獲得したかについてはよくわからないため、タイムスリップしてみないと結局よくわからないというのが現時点での結論のようです。


ここまでは新世代の食生活について考察してきました。いよいよ中生代にタイムスリップです。
中生代の主役といえばもちろん恐竜です。ユダヤ教徒たちはピクルのように恐竜を倒して食すことができたのでしょうか。この問題を考える上で参考になるのが恐竜たちの末裔たる現生鳥類の扱いです。ニワトリ肉はカシュルとして認められているため、鳥ならなんでもOKかと思いきや意外と制限されています。
カシュルとして許されているのはニワトリ、ハト、カモ肉で、アウトと認定されているのがハゲワシ、ミサゴ、ミミズク等猛禽類、カモメ、ペリカン、サギ類、ヤツガシラなどだそうです。ヤツガシラなんて捕まえようと思ったってそうそう捕まえられるもんじゃないと思いますが…ちなみにコウモリも鳥カテゴリ内で禁忌の食材としてカウントされています。
さて、この鳥肉内の謎のカシュルート基準はいったいどういうものなのでしょうか。ざっくり言うと、predatorは食すべきでない、ということにされているようです。predatorというのは獲物を足でガッチリ掴んで運べる、生きたまま獲物を食べる、などということを示している模様。確かにペリカンもあんな顔して鳩丸呑みにしたりしますしね。

というわけで、predator系の獣脚類(ティラノサウルスとかベロキラプトルとか)はもう全滅ですね。ではトリケラトプスなどの草食恐竜はどうでしょうか?カシュルートには他にも、羽毛があり、4本脚で歩く全ての這うもの(爬虫類・両生類・昆虫も含む)はアウト、という謎の条件があります。現生でいうと、トカゲ肉なんかがこの条件でアウトとされているようです。ではトリケラトプスはどうか、というと、確かに4足歩行ですが、最近あれは足の裏で歩いているのではなくてつま先立ちで歩いているのだ、とする研究成果が発表され、角竜類の歩行に関して我々の理解を大きく進展させました(Fujiwara, 2009)。その意味ではトリケラトプスはカシュルとして認定しうるものです。しかし、この角竜類の中で最も祖先的とされるプシッタコサウルスあたりを見てみますと、二本脚歩行であり、また羽毛を持つものも見つかっているようです。このようなことから、トリケラトプスも羽毛があった可能性を完全には否定できず、やはりカシュルとして認定できるかどうかはわからない、と こんな調子でこの論文では恐竜全滅と結論しています。

では恐竜じゃないけど翼竜はどうか?翼竜は羽毛がありませんし皮膜で飛んでいたと考えられます。しかし、こちらについても鳥肉カテゴリ内で同じように皮膜で飛ぶコウモリがアウトと認定されていることから、またpredatorであることからもカシュルではないだろう、としています。

このように、時代を遡れば遡るほどカシュル認定しうるタンパク源は制限されていくため、ユダヤ教徒はむやみにタイムスリップすべきではない、という内容の論文でした。ユダヤ教徒は食事にさえいろいろ規定があって生存が難しそうですが、ハイアイアイ群島では『春分と秋分の祭のとき以外はホーナタタ(ナゾベーム現地名)を食べるな』という規定くらいしかないので(思索社版『鼻行類』63ページ)ハイアイアイ群島先住民フアハ・ハチ族の末裔たる我々はタイムスリップしても特に問題なく当時の生活を満喫できそうです。ユダヤ教徒どもとフアハ・ハチ族が揃ってタイムスリップしていたら、今頃は我々フアハ・ハチ族が世界を席巻していたかもしれませんね。

posted by 亀藤 at 02:41| Comment(0) | 論文紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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